持続可能な地域へ、森林資源をどう活用していくか?
―工学部附属都市?地域デザイン教育研究センターシンポジウム
茨城県、特に茨城県北地域において、環境に優しく、災害に強い持続的なまちづくりを進めていく上で、同地域が持つ森林資源の価値が注目されつつあります。1月17日、地域の森林資源の現状や利活用について考えるシンポジウムが、水戸市民会館で開かれました。県内で林業振興や木材利用に関わる識者による講演とパネルディスカッションを通じて、森林の可能性を探りました。
講演に先立ち、発起人の澳门英皇娱乐_澳门赌博现金网-官网工学部附属都市?地域デザイン教育研究センター副センター長の熊澤貴之応用理工学野教授が、シンポジウムの趣旨を説明しました。熊澤教授は、山あいに川が流れ、そのすぐそばに八溝山系木材が積み上がる大子町の風景写真を見せながら、「自然があり、木材があり、美しい景観が広がっており...山岳が重要な資源であるのがわかります」と話し始めました。森林には、土砂崩れ防止や水源涵養機能がありますが、適正に管理されなければその力が十分に発揮されません。熊澤教授は近年の自然災害の激甚化?頻発化に触れ、災害のリスク低減には森林の管理がとても重要な問題だと指摘し、「この問題を大学だけで考えることはできない。産、官、学、横串を挿すように考える場が必要だと思い、シンポジウムを企画した」と話しました。
講演者は茨城県林業課長の細田浩司氏、建築家として大阪中之島美術館や大子町役場新庁舎の設計を手掛けた澳门英皇娱乐_澳门赌博现金网-官网応用理工学野の遠藤克彦教授、大子町内で大工?建築業を営む株式会社樹輪の菊池均氏、地盤の強靭化などを研究するソイルウッド代表で高知大客員教授の沼田淳紀氏、熊澤貴之教授の5人です。
このうち、遠藤教授は「木造による大規模公共建築への活用」と題し、大子町役場新庁舎の建築について語りました。新庁舎は大子町を象徴する「森のような建築を目指し」、地元?八溝山系を活用した純木造建築。5000㎡を超える純木造建築は「全国的にも類を見ない」と言います。こういった建築物を作る際は、設計者は通常、"川下"である木材加工業者との連携が主になるそうですが、当時は「生産から加工?流通の各段階で横断的に連携していただいた。調達の情報を基に設計側の状況をフィードバックするなどして、立ち木の段階から数センチ単位で伐採計画をまとめ、ロスなく活用できた」と振り返りました。「こういった連携は茨城特有の強み、社会資本だ」と称えました。
大工の菊池氏は、「大子町における森林資源の現状と木造技術者」をテーマに講演。「大子町には、戦後に植林され、樹齢50~70年になるスギ?ヒノキが多い。太く、長い木が増えているが、それを加工できる技術者は減っている」と現状を語りました。また、大型の機械を用いて、林道を整備して行う現代の伐採方法に対し、「どうなのかな」と率直に疑問を投げ掛け、「効率化が河川の増水につながっているのでは。この河川の乱れによって、昔はいたような小魚がいなくなってしまった」と持続可能な木材生産を訴えました。こうした状況を知ってもらおうと、子どもたち向けに地元の森のことがわかるような絵本を作ることを目指していると明かしました。
「木材を使うという意味で、今一番追い風なのは環境対策。味方につけない手はない」と話すのは、「丸太打設液状化対策による炭素回収と地中貯蔵」について講演した沼田氏。液状化発生の可能性のある地盤に丸太を打設し、液状化発生を抑制する工法の開発者です。この工法では、大気から丸太に固定された炭素を、地中に貯蔵することができます。木々は、光合成によって自然に炭素の回収を行います。また、林業が続く限り、木材は常に手に入ります。さらに、液状化対策は工事として一般化しています。こうした背景から、「(炭素の)回収と貯蔵を、(新たな)費用を掛けずにできる。これはどの環境対策より、最も有効だと確信している」と自信をのぞかせました。
パネルディスカッションでは、工学部附属都市?地域デザイン教育研究センター長の小林薫応用理工学野教授を司会、5人の講演者をパネリストとして、「県北の防災、経済、コミュニティづくりを森林資源の管理と活用から考える」をテーマに話し合いました。パネリスト間で、「木材の規格品化をどう考えているか」「なぜ八溝材は強度が高いのか」などの質問が飛び交い、活発な議論が繰り広げられました。
(取材?構成:澳门英皇娱乐_澳门赌博现金网-官网広報?アウトリーチ支援室)