【土曜アカデミー】大量情報処理=電力消費時代に熱電変換&省エネコンピューターの「二刀流」が挑む
澳门英皇娱乐_澳门赌博现金网-官网の学問の世界を楽しめる「土曜アカデミー」。12月14日は、日立キャンパス内のレトロな建物である小平記念ホールを会場に、工学部電気電子システム工学科で教鞭をとる小峰啓史准教授が講演。温度差を電気に変える「熱電変換」の新技術や、省エネにつながるコンピューターについて、実験やクイズも交えて語りました。
高解像度の動画コンテンツの流通や生成AIの普及は、私たちの生活を便利にし、また新しいサービスやエンタテインメントを生み出しますが、一方で大量の電力を消費することになります。
小峰准教授によれば、世界のデータセンターの合計エネルギー消費は、2030年には世界の総発電量の15%を占めるという予測があるとのこと。さらにその割合はすぐに3割にまで増えるとも見込まれているそうです。
たとえば生成AIのChatGPTで1回リクエストをすると、2.9Whの電力量を消費します。これはGoogle検索の約10倍で、1日90億回リクエストされるものとして計算すると、年間10テラWhというとんでもない電力量になります。
この大量情報処理=電力消費時代に取り組むべきことは2つ。電気をつくる効率を高めること(しかもクリーンに)と、情報処理にかかる電力を少なくすること(省エネ)です。実は小峰准教授は、電力生産の効率化につながる熱電変換の技術開発と、消費電力の少ないコンピューターの研究という「二刀流」の研究者なのです(本人曰く「かなり珍しい」)。
まずは熱電変換。これは温度差を電気エネルギーに変換する技術です。今回の講座では、熱電変換の小さなデバイスを使って、お湯と冷えた金属の温度差によって電気を起こし、プロペラを回して見せるという実験も披露されました。この技術を使えば、そのままだと無駄になってしまう工場や車の排気の熱を利用して、新たな電気をつくることが可能になります。夢のような話ではありますが、現実はそんなに簡単ではありません。温度差を保つことは難しく、今回の実験でも、ほどなくお湯が冷めて金属の温度が大気で上がると、プロペラは止まってしまいます。
澳门英皇娱乐_澳门赌博现金网-官网工学部は、小峰准教授をはじめ、熱電変換の研究者が実は全国的に見ても多いという特徴をもっています。熱電変換の研究者が追い求めるのは、「与えた温度差に対して電気出力を効率的に得るにはどうすればいい?」という課題です。特に考えなければならないのが、電気抵抗は小さい(つまり電子は動きやすい)けれど、熱は伝わりづらいという特性をもった材料探し。
実は世界中でその材料開発がさかんに取り組まれているのですが、そこには大きく3つの問題があると小峰准教授は説明します。すなわち、①材料開発指針が不足していて錬金術のような状況になっている、②材料をつくるのが大変で1個の材料でも1年間はかかってしまうという効率の悪さ、③熱電効率の測定方法が確立されていない というもの。
このほど小峰准教授のチームは、これらの課題を解決するためのプロジェクトを提案し、JST(科学技術振興機構)の研究助成プログラムに採択されました。
【参考】熱電変換技術の研究開発効率を100万倍に!トポロジカル物質と高速スクリーニング技術で実現目指す
この提案のポイントは、「トポロジカル熱電材料」。ここでいう「トポロジカル」な物質とは、熱流は材料内部を移動し、電子のキャリアは材料の表面を移動するという特性をもつものです。トポロジカルな物質を上手に使うと、熱と電気の独立制御が可能となり、熱電変換の性能は飛躍的に大きくなります。今後の研究開発が楽しみです。
では、もう一つの対策、消費電力の少ないコンピューターの方はどうでしょうか。
よく知られているように、従来のコンピューターは、「0」と「1」という二進法を使って情報処理を行っています。自ずと大量の信号を要することとなり、これが電力量を増加させるのです。
一方、最近さかんに開発が進められているのが「量子コンピューター」です。これは量子がもつスピンの性質を利用したもので、1つの素子で「0」「1」の2つだけでなく複数の情報を扱うことができるため、情報処理の効率は一気に上がります。しかし、量子コンピューターの問題点は、摂氏-273℃まで冷やさないといけないことで、その冷却だけで大量のエネルギーを費やすことになります。
それに対し、小峰准教授は人間の脳型のコンピューターに着目。「『アルファ碁』というAIが人間の棋士を負かしたということが話題になりましたが、アルファ碁の消費電力が25000Wなのに対し、棋士が費やす脳の消費エネルギーは20Wです。人間の脳と同じような情報処理ができるコンピューターを実現できれば消費電力は大きく下がります」と説明しました。
最後の質疑応答のパートでは、トポロジカル熱電材料の仕組みなどについて、いくつも質問が出されました。その中で、熱電変換と省エネ情報処理の「二刀流」のメリットを聞かれた小峰准教授が、「熱電材料としてトポロジカルな物質を使うというアイデアは、次世代コンピューターの研究をしていなかったら生まれなかったかもしれない」と回答する場面も。幅広い視点をもった研究がイノベーションにつながるのですね。